4.2. NAT使用時の注意点

これまでにも軽く触れたが、NAT を使用する際には幾つか細かい注意点がある。まず第一に、全く機能しないアプリケーションがあることだ。ありがたいことに、こうしたアプリケーションはネットワークの世界でマイナーな存在であり、大きな問題につながることは少ない。

二番目は先の問題よりも小さいが、一部不完全にしか動作しないアプリケーションやプロトコルの問題だ。そうしたプロトコルは、全く動作しないプロトコルよりはメジャーなもので、残念ながら、現在のところ、この点に関して我々にできることは少ない。もしこれからも複雑なプロトコルが登場し続けると、我々はこうした問題に延々と付き合わされることになる。特に、標準化されていないプロトコルが問題だ。

残る三番目の大問題は、やや僕の私見になるが、 NAT サーバによってインターネットと隔てられそこを介してしか外へ出て行けないユーザは、自分のサーバを立てることはできないという事実だ。もちろんやれないことではない。しかし設定には多くの時間と労力が要求される。これも、企業においては、インターネットからアクセス可能なサーバが社員達の手で無統制に山ほど立てられるよりは好ましいことだろう。しかし、話をホームユーザに転じると、これは是が非でも避けなければならない事態だ。あなた方がインターネットサービスプロバイダならば、利用者にプライベート IP を割り当てておいてパブリック IP へ NAT するなどということをしてはいけない。そんなことをすれば、あなたは無用のトラブルを抱え込むこととなる。あのプロトコルがちゃんと動くようにしてくれ、このプロトコルも通るようにしてくれと、ユーザからの要求が次から次へと押し寄せることになるだろう。ユーザが変に静かだとすれば、あなたのワラ人形に密かに釘を打ちつけているのかもしれない。

NAT の注意点として最後に添えておきたいのは、元来 NAT は応急処置的に考え出された技術だという点だ。インターネットのあまりにも急速な普及で IPアドレスがじきに枯渇するということが IANA をはじめとした各種団体によって指摘されたのを受け、考え出されたひとつの打開策なのだ。 NAT は、かつて IPv4 (これまで話の中で使ってきた IP とは、実は IPv4 つまり Internet Protocol version 4 の省略形だった) の欠点を補うための急場しのぎとして考案され、そして今でも使われている。 IPv4 アドレス枯渇の根本的解決は IPv6 であり、 IPv6 が普及すれば他にも様々な問題が解決できる。 IPv4 の IPアドレスが 32 ビットであるのに対して、 IPv6 ではアドレスの定義に 128 個のビットを使用する。アドレス空間は飛躍的に増えることになる。しかし IPアドレスの数が充分だからといって地球上の全てのネットワーク最小単位にいちいち IPアドレスを与えるのは馬鹿げているのではないだろうか。かつて、 IPv4 のアドレス空間だって小さすぎるなどとは誰も思ってもみなかったのだ。